ラッパーとして、シンガーとして、そしてさまざまな楽曲提供で注目を集めるソングライターとして、今まさに勢いに乗るアーティスト・クボタカイ。彼が初めてバンドセットで行うワンマンライヴ「シン・クボタ」が、彼の23歳の誕生日である3月22日、渋谷クラブクアトロで開催された。期待感が満ちたステージに、まずはドラム、ベース、ギター、キーボードからなるバンドメンバーが登場。それに続いてクボタが現れ、ステージ中央に置かれたスタンドマイクの前に立つ。ひとつ息を吸うと、アカペラで「Wakakusa Night.」を歌い始めた。そこに入ってくるスムースなバンドのアンサンブル。とてもリッチなサウンドの中、クボタはリズムを肩で刻みながら言葉を紡いでいく。

「今日は渋谷の中で一番最高の夜にしましょう！」とフロアに声をかけると、一気にギアを上げ「Youth Love」へ。オーディエンスに目をやると、みんな手をバウンスさせてリズムを味わっている。畳み掛けられるライム、ポップきわまりないコーラスのメロディ。クボタカイというアーティストの両面をストレートに見せる楽曲で、ライブは早くもこの日最初のピークポイントを迎えた。その後も多彩な楽曲を生バンドの気持ちいいサウンドとともに披露していくクボタ。それにしても印象的なのは、ボーカリストとしての表現力の豊かさと強さだ。切ないメロディを目の前に語りかけるような親密さでなぞったかと思えば、かっちり韻を踏みながら曲のリズムをパワフルに補強する。そしてそのすべてで、言葉がとてもストレートに、ダイレクトに耳に届く。まさに彼はラッパーの本能で歌を歌い、シンガーの感性でラップをする、とてもユニークな才能なのだ。そんな彼のユニークネスをよく表していた序盤のハイライトが「インサイダー」だった。ハンドマイクで全身を躍動させながら歌う「インサイダー」はクボタカイのディスコグラフィのなかでもとくにポップで開放的な曲のひとつだが、同時にじつにストロングスタイルのラップチューンでもある。ラッパーとシンガー、その両方の顔を同時に表現できる、クボタのおもしろさが凝縮された1曲だ。

「渋谷のクアトロ、初めて来たんですけど、東京って怖いですよね」と、宮崎から来たときに空港からホテルに向かうバスの窓から暴走族を目撃したエピソードを披露してフロアを和ませると、バンドメンバーを紹介し、「拝啓（Freestyle）」へ入っていく。なめらかなバックのサウンドにのせて「正直ライブって不安だ」と素直な心情を織り込みながら今日だけのラップを綴ると、今度は「ベッドタイムキャンディー2号」のロマンティックなグルーヴでフロアを気持ちよく揺らしていく。そしてここで新曲を立て続けに披露。最初に演奏された「ひらめき」はバンドならではの熱量をそのまま落とし込んだドラマティックでエモーショナルな楽曲。そして続けて鳴らされた「ピアス」はとても切ない歌詞を丁寧に撫でていくような親密なメロディがとにかくすばらしい1曲だった。歌い終えたクボタも「新曲、いいでしょ？」と自信ありげだ。

今日が誕生日ということで、リハーサルでメンバーからのサプライズで「ハッピーバースデー」を贈られたというクボタ。「ボーカリストの職業病」で思わず自分で歌ってしまったという微笑ましい話を挟みつつ、「10代の頃に作った曲」として「TWICE」を繰り出すと、ミラーボールが回る中「MIDNIGHT DANCING」へ。強烈なサビのリフレインにフロアからも再び手が上がる。そして「次の曲は撮影OKです。でもそのぶん盛り上がって、伝えてね」とフロアに告げつつ始まったのは本日デジタルリリースされた新曲「ナイトイーター」。アグレッシヴなビート、緩急自在のテンポ、極太のファンクネス、そしてその上を縦横無尽に駆け回るクボタの声。フロアはスマホを構えながら飛び跳ねるオーディエンスですごいことになっている。

そんな「ナイトイーター」の盛り上がりを経てライブは終盤にさしかかる。「エックスフレンド」のグルーヴでゆったりチルアウトさせると、ピアノが奏でるフレーズからバラード「ノンレム」へ。歌い終え、「何言おっかなあ」と言いながらクボタは話し始めた。「みんな、俺のこと好きだよね？ でも自分で自分のこと好きかと言われたら100%好きだとは言い切れない。自分の好きな自分になるために音楽をしてるというのが正しくて、伝えたいことなんてひとつもない。みんなと同じように悩んで、裏垢につぶやくみたいに歌詞書いて、そしたらみんな聴いてくれて……よければクボタの音楽を少しでも生活に取り入れてくれたらと思います。伝えたいことはないけど、聞いてくれるならついてこいよっていう気持ちです」。そんな言葉から始まった本編ラストのパート。とても率直な心境吐露「MENOU」に続き、この日初めてギターを抱えて歌い始めたのは「僕が死んでしまっても」だった。さきほどの自身の言葉を証明するかのように淡々と綴られた言葉は、しかし、こうしてステージで歌われることによって、誰かにとって強いメッセージになる。そのことをクボタカイは、そしてステージを食い入るように見つめるオーディエンスの姿は改めて教えてくれた。

その後アンコールではちょっとリラックスした雰囲気でオーディエンスに語りかけて、ひとりだけのギター弾き語りで「アフターパーティー」を歌うと、再びバンドを迎えて「この曲がみんなの生活に溶け込んでくれたらいいなと思います」と「せいかつ」。ステージとフロアの境界を消し去るかのようにオーディエンスをライトが明るく照らし出し、「シン・クボタ」は幕を閉じた。

この日披露された「ナイトイーター」 は本日デジタル配信が開始されている、また新曲たちも続々リリースが予定されているとのことなのでさらに進化していくクボタカイから目が離せない。


クボタカイ OnemanLive　「シン・クボタ」
2022.3.22 @SHIBUYA CLUB QUATTRO
1 Wakakusa Night.
2 Youth love
3 春に微熱
4 Sunset City
5 博多駅は雨
6 インサイダー
7 拝啓 (Freestyle)
8 ベッドタイムキャンディー2号
9 ひらめき (※未発表新曲)
10 ピアス　(※未発表新曲)
11 TWICE
12 MIDNIGHT DANCING
13 ナイトイーター　
14 エックスフレンド
15 ノンレム　(※未発表新曲)
16 MENOU
17 僕が死んでしまっても

EN1 アフターパーティー
EN2 せいかつ

文＝小川智宏
写真＝ヤオタケシ


【リリース情報】

ナイトイーター
3.23 配信開始
https://kubotakai.lnk.to/nighteater


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